"Frank Martin and The Fairies"  (フランク・マルティンと妖精)
話者 William Carleton
編集者 William Butler Yeats

あらすじ
妖精の見える人の話。
感想
Yeatsらしい話。多少オカルト臭い。ありがちと言えばありがち。
訳してみての感想
例によって単語が分からない。OED抜きでは絶対無理。
意訳度―B原文忠実度―B熱心度―A




 会った時思ったんだけど、マルティンは痩せていて色白な人だった。病弱そうな外見をしており、先天的に虚弱体質を持っていた。髪は赤毛で、顎鬚は無精髭だった。異常に華奢で白い手は、恐らく、虚弱体質だけでなく仕事場が室内であることにも原因があるのだと思う。何事においても彼は人並みに思慮深く真面目で理知的であった。だが、話が妖精のことになるとやけに話に昂じて人の話を聞かなくなるのだった。実際、今でも目の前に思い浮かぶ。異常に熱中し虚ろになった彼の目、やつれて血色の悪い狭いこめかみ。
と、このように言うと、この男は恵まれない生活をしていて慢性的な病気に悩まされているから苦痛や恐怖を感じているんだ、と思ってしまいがちだが、実際はそうではない。むしろ逆に、彼は妖精達ととてもいい関係にあるので、彼らの間で交わされる会話――私は完全に一方的な会話なのではないか、と恐れているのだが――それが彼にとってこの上ない喜びをもたらしてくれているに違いなかった。というのも、少なくとも彼の側では妖精達は陽気に笑っていてくれているからだった。
「おい、フランク、本当に妖精が見えるのか?」
「ああ、今だって24人もいるじゃないか、店(織物屋)の中に。ほら、杼の上に少し年取ったやつが座ってるだろう。みんな俺が織っているから、揺れてるよ。あいつらホントにむかつくんだよね。だってね、こいつら俺にたかってるから。ほら、見てよ。あの漆糊入れ(ピッパ注;糸を織るときに摩擦で糸が切れないようにするねばねばしたもののことです。日本語でなんと言うのか私は知らないので漆糊と訳しましたが・・・)のところで別のやつがいるだろ。おい、お前ら、頓馬、触るな。さもないと、邪魔なんだよ、お前目つけといてやるからな。分かった?ほら、ハイエナみたいにたかってないで、切るんだ、さっさと切るんだよ。」
「フランク、怖くないのか。」
「俺が?アラ、一体どうして俺が怖がらなきゃいけないんだい。あいつらは俺に何も出来ないに決まってるんだから。」
「それはまたなんでなんだよ?」
「パプテスマを受けたからだよ。」
「どういう意味なんだい?」
「つまりだな、俺の親父は俺に洗礼する司祭さんに頼んだんだよ。妖精達から守ってくれるようお祈りをしてくれって。――でだ、司祭は頼まれたことは断れないからな――その通りにしたんだよ。いやはや、そうしてくれてよかったよ、ほんと――(おい、俺のランプから離れろよ、食い意地の張った乞食め――ほら、あのちっちゃい盗人が俺の獣脂を食べようとしてるのが見えるだろ)――だってさ、見てて分かるだろ、俺に妖精界の王様になって欲しがってるのが。」
「そんなこと出来るのか?」
「絶対嘘じゃぁねぇ。あいつらの首を切ってみろよ。そうすれば教えてくれるぜ。」
「大きさはどれくらいなんだ?」
「ああ、めちゃくちゃ小さいね。緑の上着を羽織ってる。それに見たこともないかわいい靴を履いてるよ。ほら、ここに二人いるだろ――こいつらとは長い付き合いだな――糸が紡がれるのにあわせて走り回ってるやつ、ショートヘアのかつらをつけている年取ったやつはジムジャムっていうんだ。もう一人の三角帽かぶったやつはニッキーニックだぜ。ほら、ニッキーは煙草やってるな。ニッキー、ほら、歌うんだ。さもないとどうなってもしらねぇぜ。ほらほら、『金鷲湖岸にて』だよ。――しっ、ほら聞いてごらん。」
かわいそうに四六時中必死になって織っているのに、楽曲を歌うことにまでも気を回さなくてはならなくなったわけだが、(もし妖精が実在するなら)楽しんでいるように見えた。
でも、誰が言えるだろうか。不自由だと思われている時の方が満ちたりているいかなる時よりも、結局のところは幸福をもたらしてくれるということはない、などと。誰だったか忘れたがこんな詩を詠んだ詩人がいたはずだ。

此の世はいかに謎めかし
夢の逢瀬はかなへども
うつつに逢瀬はかなうまじ
夢に劣れる浮世かな

私が6、7歳の子供の頃までずっと長い間、好奇心と恐怖で引き裂かれそうになりながらも、妖精と彼の会話を聞くためにフランクの織物屋に通いつめたものだ。朝から晩まで彼の口は彼が動かす杼のようにひっきりなしに動いた。またこんなことも知っている。夜、ふと目覚めるといつもきまって真っ先に手で妖精達をベッドから「追い出す」のだった。
「さあさ、出てくんだ、お前達は泥棒か。――今すぐだぞ、今すぐ出てけ。これは俺のベッドだ。ニッキー、いっつも煙草をふかしやがって。それじゃあ、眠れないだろ。出てけ、さっさとしろ――もし、ちゃんと約束通りどいたら、明日いいもんやるよ。ああ、今新しい漆糊作ってるからそれやるよ。ちゃんと聞き分けよくしたら、あの入れ物洗ってやるよ。ほら、あっち行け。くそ、ほんと役にたたねぇやろうなんだから。やっとどっかに行きやがった。馬鹿な赤帽野郎以外は。こいつはほんと中々言うこと聞かねぇんだよな。」そういうと、この無害な妖精偏執狂者は、所謂「おめでたそうな顔」をして寝入ってしまうのだった。
ちょうどこんな頃、奇妙なことが起こったという噂が広まり、病弱なフランクが近所中の人たちから特別視されることとなった。フランク・トーマスというやつがいた。ああ、ミッキー・マクローレイが初めてダンスパーティーを開いた家のやつだ。そのダンスパーティーがそいつとは初対面だった。以前そいつのことは話したはずだがな。言ってあったっけ。どんな病気だったか、どれくらい重病だったのか、今では覚えていないが、そいつには病気の息子がいた。祠、いや厳密には苦しみの屋敷と呼ばれている大屋敷があったが、トーマスの家は一面がその屋敷に面していた。いや、トーマスの家はその屋敷に囲まれていたと言う方がふさわしいかもしれない。その建物は妖精が住み着いてしまったと言われていた。そして、私が見るにその建物を特に荒涼足らしめているのは南側に、異教徒の墓だといわれている2、3個の緑の盛り土があることだった。そのそばを通ることは危険で不吉だと考えられていた。事件がおきたのは、真夏だった。子供が病気だった。夕暮れ、黄昏時に鋸の音がその屋敷から聞こえてきたのだった。これは非常に奇怪なことであったので、フランク・トーマスの家に集まっていた人のうちの何人かがすぐに見に行った。そんな場所で鋸を挽いているのは一体全体誰なのか、こんなにも遅い時間に何を切っているのか、それを知るために。皆、この辺りの人間の中にあの屋敷に生えているセイヨウサンザシを切ろうとするようなやつがいるなんて信じられなかったのだ。しかし、確かめに行くや否や驚愕した。隅から隅まで捜しまわったにもかかわらず、鋸や木挽きの痕がどこにも見当たらなかったからだ。いや、それどころか彼ら自身を除けば、実生物だろうが霊だろうが、見えるものは何一つとしてなかったのだ。だが、家に戻って落ち着く間もなく、もう一度今度は10メートルも離れないところから鋸の音が聞こえてきた。もう一度屋敷中を調べまわったが、何も見つからなかった。しかし、今度はその屋敷内にいる時に、彼らの目の前の小さな穴の底から鋸の音が聞こえてきた。150メートル程の深さだろうか。底まではっきりと見下ろせたが、誰もそこには見えなかった。この奇妙な音と見えない人物が何を意味しているのか、確かめられるなら確かめようと彼らはすぐに降りて行った。だが、音のしていた場所に着くや否や、鋸の音はもちろん、金槌の音と釘の打ち込まれる音までもが上の屋敷の方から聞こえてきた。だが、屋敷に立っている人には依然穴の中から音が聞こえていたのである。音を聞き比べた挙句、彼らはビリー・ネルソンをたったの7、80メートル先に住んでいるフランク・マルティンの所へやった。彼はすぐにやってきて口ごもることなくこの不可解な現象を解明した。
「『妖精達』だよ」彼は言った。「俺には見えるよ。あいつらも忙しいんだな。」
「だったら、何を切ってるんだい、フランク。」
「子供の棺を作ってるんだね。」彼は答えた。「本体のほうは作り終わっちゃってるね。今はみんなでふたを打ち付けてるよ。」
その晩、病気だったその子供は死んだ。それから二日後、棺を作るよういわれた大工は即席の作業机にするために机をトーマスの家からその屋敷の敷地に運び出した。そこで彼が作業を終えるまでに出した鋸の音と金槌の音は前日聞こえた音と完全に同じだった――完全に――という噂らしいな。だが、違う。私もその子が死んで棺が作られる過程を覚えているが、大工の妖精の話は葬式の後数ヶ月するまではその村では聞かれなかったからな。

ああ、そう言えばフランクには心気症の兆候があったな。私が彼に会った時、彼は30位だった。だが、彼の体つきの衰弱具合や虚弱体質を見るにつけ、彼が数年間でさえも生きてこれたとはとても考えられなかった。だから彼は相当な好奇心や詮索の対象となった。彼が見知らぬ人から「妖精の見える人」と言われるのをしばしば見てきた。やつはそういうやつさ。

原典 ― Irish fairy and folk tales
出版者 ― New York : AMS Press
出版年 ― 1979
話者 ― William Carleton
編集者 ― Yeats, W. B. (William Butler), 1865-1939 ed
訳者 ― Pippa

Copyright (C) 2004- Pippa
初版 2004年10月16日、最終更新 2004年10月16日


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