プロローグ



例えば、

僕は今、東海汽船のさるぴあ丸に乗っている。
四日前に愛車のママチャリで東京を出た。
奥多摩、山梨、静岡を経由し下田までは自転車、そこからは船で伊豆諸島の神津島に渡り、
そこで一日過ごして今日東京に帰るところだ。
自転車を使って長距離の旅をするのは今回が初めてである。
八月も末だというのに日差しは非常に強い。
四日間その日差しの下ですごしたおかげで
肌は小麦色、いや、コーヒー色にこんがり焼けた。
今年は猛暑だったこともあって、南の海では大勢のトビウオが飛び跳ねている。
しかし、暑い夏ももうすぐ終わり、台風の襲来とともに世間では新学期が始まろうとしている。
僕についていえば、東京で難しい試験がてぐすね引いて待ち構える。
成り行き任せの僕は、目の前の試験については勿論、
大学を卒業した後どんな社会人になりたいだとか、将来何になりたいだとか、
そんなことは漠然としか考えていない。
「どっかいい会社に就職して人並みにお金を貯めよっか。ある程度たまったら休暇をとって自転車で旅に出て、お金がなくなったらまた働いて。で、いつか地球一周して。」
足の向くまま、風の吹くまま、行きあたりばったりの僕はぼんやりと水平線を眺めつつ、
「ケセラセラ、なんとかなるさ、なるようになるさ。」と呟きながら、
今度の休みは北海道を縦走しようかな、となんとなく考える。
旅に出る前、行き先を考えるのは確かに楽しい。
でも、どんなに考えたところでそれはあくまでプランに過ぎない。
台風で通行止めになったり、道を間違えたり、
時には体力が尽きて自転車をこげなくなったり。
長い旅では何が起こるかは予測不能だ。
将来のことを真剣に悩んだって仕方がない。
大切なのは、何が起きたって、永遠に続くかと思われるような峠の上りだって、
「ケセラセラ、なんとかなるさ。」と嘯きながら自転車のペダルをこぐ、
疲れたら休んで元気になったらまたこぐ、その気楽さなんだ、多分。

こんな紀行文の書き出しは嘘クサイと思う。

次回―生まれながらの冒険者

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東京亜大陸横断記

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