奥州街道を歩く―雨降る旅路は福島にて―



3月28日月曜日

寒い。1時頃目が覚める。非常に寒い。後で知ったことだがこの日の最低気温は1.6度。そりゃ寒いはずだ。いくら僕が冒険家精神にあふれたやつだといっても1.6度の夜を吹きさらしで、しかも寝袋無しで過ごす気はさらさら無い。しかも前日、山寺で借りた長靴に穴が開いてたおかげで雪の中を歩いてぬれた靴下のままだから非常につらい。靴下持ってくるの忘れたからな。仕方ない。暴走族だろうが不良少年だろうがバラケツだろうが何でもこい、からまれてもいいや。腹をくくって駅舎に移動する。

朝5時に起きる。どうも原住民にからまれないですんだみたいだ。掃除をする。5時半過ぎの始発に飛び乗る。数分で着いた三春駅で降りる。実は日本三名桜の一つ、三春滝桜を見に来たのだ。地図を見ると片道8キロはありそうだ。バス停はあるが時刻表を見ると一日に三本しかない。当然歩くことにする。

歩く。ひたすら歩く。だが6時15分頃、手袋をしてないことにふと気付く。どこかで落としたらしい。昨日の御神籤が頭をよぎる。「失物おそく出づべし。」帰りしなに探しつつ戻ることにしよう。

しかし、腹が減った。コンビニが一軒だにないのだ。歩き始めて一時間弱程たったところでやっとこさコンビニを発見。腹を満たしたら、また歩き出す。え、歩きすぎ?だってさ、「事件は現場で起こってるんだ。足で稼げ。」ってのが湾岸署のデカやってた親父の遺言なんだよ。ごめん、親父。勝手に死んだことにしてしまった。

さらに歩くこと40分。これだけ歩いたんだからな、滝桜、しょぼかったら承知しねぇぞ、と勝手に滝桜を脅す。もうそろそろ着いてもいい頃なんだけどな、と思いながら上り坂を登りきると、・・・あった・・・。

・・・。・・・・・。・・・・美しい。美しすぎる。うまく形容できない。Beyond descriptionとはこのことだ。
数百年そこに生えてきたことがしのばれる落ち着いたたたずまい。枝垂れた枝に咲く満開の桜の花。人智を超越したものを感じる。美しい、美しすぎる・・・・。

・・・というコメントを用意していた。8キロも歩いたんだから、何回もこのコメントは練習してきた。なのに何だ?桜のつぼみさえ見えない。岡を越え、橋を渡り、やっとの思いでたどりついた滝桜。しかも、一時間半で8キロだから結構頑張って歩いた方だ。なのに、滝桜のあまりにも強烈過ぎるプロの洗礼だ。徹夜で一生懸命英語の試験勉強して学校に行ったら、英語の試験は昨日終わっていて今日は地理だったって位ショックだ。言葉にでもいいから花を咲かせてやりたい気分だが、一人しかいないのに言葉に花が咲くことなんてある訳がない。悪い意味でBeyond descriptionだ。

腹が立つを通り越して呆れてしまった。今朝の僕の行為は完全に無駄になっちゃったじゃないか。とりあえず、この絶景の記念撮影をして帰路につく。非常に腹が立つ。おい、何だよ、咲いてないんだったら咲いてないって言っといてくれよ。「でもさ、東京でまだ桜が咲いてないのに福島で咲いてる訳がないってこと、君も薄々感ずいてたんでしょ。」そんな心の中の声は無視して郡山市と三春滝桜に八つ当たりする僕だった。

気を取り直そう。三春滝桜を発ち歩き始めて一時間、手袋を発見。ほらね、遅くみつかるべし、だ。テンションがあがってきたところで8時40分三春駅到着。時刻表、時刻表、っと。えーっと、8時15分発の次は・・・10時5分?は?おい、こら、ゆうゆうあぶくまライン、悠々しすぎだ。

10時過ぎ、電車に乗る。・・・・ふと気がつく。よく見たらパンタグラフないじゃん。架線もないぞ。ま、まさか・・・ディーゼル車?!今まで気がつかなかった。不覚。訂正しよう。10時過ぎ、電車ではなくディーゼル車に乗る。

もう既にKO負けを喫した感のある僕だが、ゆうゆうあぶくまラインは最後まで攻撃の手を緩めない。3メートルはある木が線路上に生えている。濃すぎるゆうゆうあぶくまラインの右ストレートに息絶え絶えの僕は、30分弱で着いた菅谷駅で逃げるように電車、じゃなかったディーゼル車を降りた。

ぽつ、ぽつ、・・・。列車に乗ってたから気がつかなかったがどうも雨らしい。しかし、ディーゼル車は行ってしまった。持参してきた地図帳を見ると「∴入水鍾乳洞」と書いてある。行ってみよう。強くなる雨に恨めしげに薄暗い空を見上げながら着くまで半時間。11時頃着く。大丈夫か、駐車場に一台もとまってなかったけどやってけるんだろうな。いや、その前にそもそもやってるんだろうな。そんな心配をしながら入場料を払うと、「ちょっと待っててくださいね、今電気つけますから。」

嫌な予感がする。「〜ゆかりの地」だとか、「あの〜の歌に詠まれた絶景」だとか、何万、何億と存在する歌、小説、歌人の中の一つを取り上げて一生懸命宣伝する。そんな片田舎の観光地は、とにかく大概交通料とか入場料がアホみたいに高くてヘチョいのが普通だ。交通料は仕方ないとしても、石田純一と同じ素足主義の陽気なサザエさんのような声で「入場料1000円でございま〜す。」なんて笑顔で唱えてやがるから営業スマイルに騙されて入場料払って入る。すると、「〜ゆかりの地」と大きく書かれた看板が一つあるだけで他には何も無い、という観光地を嫌と言うほど経験してきた。

まさか、ここもそんなんじゃなかろうな。がらんどうの鍾乳洞から吹き出す生暖かい風に不安をかきたてられつつ鍾乳洞に入っていく。・・・30分後、期待通りの鍾乳洞に生気を抜かれた人が入り口に立っていた。

「まあね、こういう片田舎の観光地ってのは車で来る人を想定してるからね。電車で来る場所じゃないもん。」そんなフォローをする優しい自分。いや、怒らないのは優しいからじゃなくて頭に来る前に足に来そうだったからなんだけどね。

正午過ぎ、菅谷駅に戻る。駅前にかろうじてあった一軒のラーメン店で昼食。次の電車は1時52分。ただ待ってるのもアホくさいので神俣駅まで歩く。ここぞとばかりに土砂降りになる雨。僕の今の装備はレインコート、だ。実は傘を持っていない。正直厳しい。早速後悔する僕。1時過ぎに神俣駅に着いた時、濡れ鼠と化していた。

2時前に列車に乗る。2時41分にいわき駅到着。乗り換えの際にアリバイ店で弁当を購入。3時半少し前に勿来駅に着く。奥羽三関の一つ勿来関がある場所だ。関所好きの僕としては絶対に押さえておきたい名所旧関。

余りにも雨が強すぎるので駅前のコンビニで傘を購入。半時間歩いて勿来関跡に着く。どんよりとした空の下、しとどにぬれた枯葉の積もった道。かさ、こそ、かさ、こそ、一歩ごとにする音が琴線に触れる。

吹く風を 勿来の関と 思へども 道もせに散る 山桜かな 源義家

雨に打たれる義家像と自分が重なる。ここをこうして、義家様もお歩きになったのですね。感動の涙で頬がぬれる。いや、頬がぬれてるのは雨のせいだが感動せざるを得ない。勿論桜はまだまだ咲いていないけど。勿来の関から臨む鉛色の太平洋がまた美しい。

僕も一句。
降る雨を 勿来の関と 思へども 道もせに流れる 雨水かな

気分がのってきたのでもう一句。
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ

ごめん、盗作。しかも勿来に滝なんてありません。

一度太平洋に出て、6号線を南下、茨城入り。やっと関東に帰ってきた。明らかに速度超過して走るトラック野郎に水溜りの水をかけられてへたばってまいそうになりつつも、5時20分大津港駅着。

6時4分の電車で大津港発。後はひたすら東京を指すのであった。
9時半頃山手線入り。車内のテレビの「英語でシャベリオーネ」が懐かしい。今日は何やってるのかな。

ブランコSwingお役立ち度4点(5点満点中)
うんていMonkey barsお役立ち度5点(5点満点中)

ちょっと待て。うんてい、だとかブランコなんて日常生活でまず使わんぞ。どう役に立つねん。しかも、役に立つとしてもブランコのほうが役に立つだろ。

公園にて恋人とデートする僕、上手より登場。
彼女1 :ダーリン、好きよ。
僕   :僕もだよ、ハニー。君を愛する気持ちはあのうんてい(Monkey bars)の横棒の数よりも多い。君のヒップラインが描く弧はあのうんてい(Monkey bars)よりも美しい。
彼女1 :そんなこと言って。本気なの?
僕   :ああ、本気だ。
彼女1 :じゃ、あのうんてい(Monkey bars)、最後まで渡れるかしら。
僕   :勿論だとも。君のためなら、うんてい(Monkey bars)だってブランコ(a swing)だって何でもこいだ。
彼女1 :まぁ、嬉しい。
うんてい(Monkey bars)にチャレンジ、途中で落下、彼女2「ブランコ(a swing)の正しい乗り方」という本を片手に下手より登場。
僕   :いたっ。
彼女2 :大丈夫?
彼女1 :あなた誰なの?!
彼女2 :あなたこそ誰よ!
中略、修羅場。ボコボコにされた僕。遠くに揺れるブランコ(a swing)。
僕   :いい?あのブランコ(a swing)をごらん。人が乗るいすは二つのチェーンでつるされているだろ?僕には君たち二人がどうしても必要なんだ。
彼女1、2:分かったわ。

本当だ。うんていとブランコは絶対に必要な単語だ。うんていとブランコのおかげで二股をかけても大丈夫。

という訳で、そこの外国人女性を恋人に持つあなた、Monkey barsとSwingしっかり覚えちゃってね。ここ試験に出すから。



本日28日の旅と気象
徒歩での移動31キロ超
電車での移動300キロ強

    〜午後2時舞木、三春、菅谷
この間の船引の気象(気象庁発表)曇のち雨
最低気温 1.6度最高気温 7.0度

午後3時〜午後6時勿来
この間の北茨城の気象(気象庁発表)
最低気温 6.7度最高気温 6.8度


ちなみに次回は「奥州街道を歩く―後書き 旅の終わり―」。

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