奥州街道を歩く―旅立ちの月光仮面―



3月26日土曜日

午後6時頃宇都宮西口に、リュックと大きな旅行かばんを持つ僕がいた。自動車教習から開放されたのである。同期の三人の中で卒検に今日受かったのは僕だけだったから、付き合いで飲みに行ったりする必要も無い。文字通り無罪放免である。

・・・いや、本当はちょっぴり寂しいけどね。同期がみんな落ちちゃってるのは。

これからどうするか考える前に、とりあえずご飯だ。お腹がすいてかなわん。宇都宮名物の餃子を食べたい。駅前に餃子店を見つけて入る。

お味は・・・、・・・成る程、そういうことですか。僕の正直な感想だ。決しておいしくなかったというわけではない。そこそこおいしかった。ただ、食べた瞬間、「そりゃ、こんだけ具入れたら俺が作ってもおいしくなるがな。」と思ってしまう味だったのだ。餃子よ。月並みだぞ。

半時間程で食事が終わる。さて、これからどうするか。自慢じゃないが、北へ向かうということ以外予定なんぞ何も決まっていない。どうだ、俺っていい加減だろ、うらやましいだろ。やっぱり自慢してみる。

悩みつつ空を見上げると空は徐々に薄暗くなりつつある。ということは電車に乗っちゃったらどうせ観光できないな、と考えて宇都宮で観光することにする。よし、二荒山神社にでも行ってやるか。

ここで、この二荒山神社について少し解説。この二荒山は「ふたらさん」と読むのだろうけど、これを音読みしてご覧。「にっこうさん」、そう、実は日光は元々、二荒と書いてたのですな。そこに、弘法大師がやって来て寺を作ろうとしたんですが「『二荒山』なんてダッセー。つーかー、流行おくれやし。やっぱ、『日光山』の方がナウくていい感じちゃう。」ということで地元長老の反対を押し切って「日光山」に地名を変えたのだ。さすが弘法大師さん。「ナウい」なんて微妙な語彙、微妙に見られる関西弁、流行に敏感だったことがしのばれるぜ。

嘘ね。え?弘法さんがこんなこと言うわけが無いの言われなくても分かる?ちゃうちゃう。日光に寺を作ろうとしたのは勝道上人ね。ただ、芭蕉の「奥の細道」には日光山の開祖は空海だった、って書いてあるのでわざと間違えてみたの。ぷっ、芭蕉さん、こんなの間違えるなんてかっわいいー。

おっと、奥の細道が絡んだのでちょっと熱く語ってしまった。読者の皆さんがひいていることがひしひしと伝わってくるぜ。さて、2キロ程歩いて二荒山に到着。じゃなかった、二荒山神社に到着。さすがに日光山までは歩けないっす。でも、大谷石、餃子と比べたら格段にいい。やれば出来るじゃん。少し宇都宮を見直す。多分この神社には何も期待してなかったから良かったんだと思うね。

あたりが真っ暗なのでここで宇都宮散策は諦めて駅に戻る。さて、北へ向かうか。時刻は午後7時20分。これから北へ向かうとしたら、と。48分の電車があるな。これに乗ったら、・・・・午後10時56分福島着。いい感じだ。

大きい旅行かばんをよいしょっ、と持ち上げて乗りかけたところでふと気付く。こんな重い荷物しょって明日から雪の積もっているだろう東北を旅するのか?やろうと思って出来ないことは無いし、そのつもりだったんだけど。これから東京に戻って荷物置いてムーンライト仙台に乗ったとしたら・・・明日の6時過ぎには仙台に着くんだろ。これから在来で東北へ向かうよりも早く仙台に着くじゃん。だったら、ムーンライト仙台に乗っちまえ。

僕得意のキマグレが頭をもたげ、東京に戻ることにした。あ、キマグレってガンバのゲストキャラのことじゃないよ。・・・若者に分からんネタでごめんなさい。

窓口で月光仮面もかつて乗ったかも知れないムーンライト仙台の切符を510円で購入。東北本線上りに乗る。満月だ。僕を照らすその満月を窓から見上げながら、これからの旅路に思いをめぐらした。ということは全然無くて、いすに座るや否や眠ってしまい赤羽まで記憶が無い。大切な旅への第一行程が「宇都宮から満月の下ローカル線に乗り北上、誰もいない車内から月を望む」という絵になるものになるはずが、「宇都宮から満員の中電車に乗って南下、座席に座り眠りこけ寝過ごしかける」というものに大きくデフレしてしまった。

家に着く。荷物を整理する。とりあえずここで今回持っていくことにした所持品を列挙しよう。
1   高校のときから使っている地図帳、筆記用具
2   カイロ、手袋、レインコート、歯ブラシ
3   デジカメ
4   携帯電話、学割(財布を落とす、脅し取られる等のいざという時のため)
これだけだ。非常に身軽である。少なすぎてリュックがぺちゃんこ、非常に貧相だ。仕方ないので無駄にハードカバーを数冊入れる。着替えは?と思われた方もいるかもしれない。けれど、今回の旅は汗をかく夏でもないし、そんなに長期のものでもないからいらないのだ。ただ、今回持って行くつもりだったのにつめ忘れたものがある。それは靴下と銭湯用具だ。この内、靴下を忘れたことが後々になって大きく響いてくるのだが、その話は後ほど。

最寄り駅から電車に乗ろうとしてふと気がついた。俺ってなんで東北へ行くんだったっけ。宇都宮で免許合宿があるから帰りについでに東北行くんだったよな。今東京にいるんだから東北に行く必要ないじゃん。

衝撃の事実に真っ青になりながらも僕は冷静だ。ムーンライトの切符買っちゃったんだから東北に行かないと損だろ、と自らに言い聞かせ自分を正当化する。このあたりはさすが俺。あ〜あ、宇都宮から直接東北へ行っときゃ話は別だけど、東京まで戻ってきたんだし東北じゃなくてもよかったね、というカゲノコエは聞こえないふりをしてムーンライト仙台の始発駅大宮に急ぐのであった。

午後11時30分頃大宮着。駅のコンビニで夜食のおにぎりとお茶を購入。ムーンライト仙台の出発ホームを探す。時刻掲示板に「23:49快速 仙台行き」の文字を発見。恐らくこれだとは思うけど、おい、JR、ムーンライト仙台って書けよ。

ちょっぴり腹を立てたふりをしながらホームへ向かうとムーンライトえちごがとまっていた。去年、この電車に乗ったものだ。その思い出にふけっているとムーンライト仙台が到着したので乗る。周りの客を見回すとみんな大きい旅行かばんを持って荷棚に荷物を持ち上げたりしている。ぺちゃんこの貧相なリュック一つだけの客は僕だけだ。周囲の客が「あいつ、旅行ってもの分かってんのか?アホちゃう?あんなリュックじゃ、近所のスーパーにも行けへん。この電車乗ろうってのはおかしいで。」と言っているかのような気がする。勿論気のせいだ。心配しなくてもこんなオタッキーな電車だ。首からカメラと時刻表をぶら下げた鉄っちゃんがうろうろしているから、荷物が少なすぎるだけの僕は全然目立たない。

ただ、少し居心地が悪い。というのも、この電車、ムーンライトながらとか、ムーンライトえちごとは違って四人対座型のシートなのだ。だから、足を思いっきり伸ばすと前の客の足にぶつかる。目を開けると前で藤原紀香が微笑んでいる、訳は無く、むさくるしい男性客がむっつりした寝顔を作っている。そういう自分も寝顔を向かいに座った客から監視され続けなきゃならないのだ。

という訳で皆さんにアドバイス。ムーンライト仙台を使うときは例え一人旅でも、二人分か四人分の切符を購入することをお勧めします。そうすれば足を思いっきり伸ばせるでしょ。

じゃ、今日はおやすみ。次回は「奥州街道を歩く―旅立ち 雪の山形―」。

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