奥州街道を歩く―旅立ち 雪の山形―



3月27日日曜日

朝6時21分仙台駅に到着する。実はこれ多分僕の初東北なのだ。仙山線でまずは山寺方面へと向かうのだが、ナニナニ、次の電車は7時8分、そうか、ちょうどよかった。朝飯でも食うか。

元気よく街へと飛び出しては見たものの、困ったことに気がつく。というのも朝早すぎてどこの店も閉まっている。そんな僕の目に飛び込んだのはオレンジ色の看板、そう、吉野家。仙台まで来て吉野家というのはどうかって?どこもやってないんだもん。しゃあないやん。

そう言えば、今、アメリカ産牛肉が輸入停止だそうな。吉野家などの業界団体が輸入再開させようとロビー活動を頑張っている。結論から先に言うと個人的には牛肉の輸入再開には反対だ。ヤコブ病の危険があるから?勿論それもある。でもね、脳がスポンジ状になろうが、どうせ元から空っぽの脳みそだ。そんなことは僕には関係ない。僕が反対するのは豚丼の方がおいしいと思うからなんだな。もし、牛肉の輸入が再開されたら牛丼よりおいしい豚丼が食べられなくなるでしょ。だから反対するの。という訳で、豚丼の方が牛丼よりおいしいと感じるそこのあなた、是非、清くても清くなくても一票を私、ピッパにお願いいたします。

実は、仙台ってどうせちっぽけな街だろ、と思ってたんだが、東北一を自称するだけのことはある。駅前の通りも大きいし思ってたよりもはるかに都会だった。ありがと、おかげで吉野家が簡単に見つかったよ。

仙台駅に戻る。そう言えば、パ・リーグが開幕したばかりだったな。駅に東北楽天EAGLESの旗が掲げてある。EAGLESは「イーグルス」と読むらしい。Tigers(タイガーズ)をタイガースと平気で読む阪神ファンの僕が言えた義理ではないかもしれないけど、EAGLESの正しい読みはイーグルズなんだけどね。僕がこの文章を書いてる今、この楽天は最下位独走中だけどこの時の仙台駅はそんなことは知らないからか、イーグルス一色に染まっていた。

電車に乗り込む。奥羽山脈に近づくにつれて積もった雪が目につきだす。一年に数回しか雪の積もらない地方出身だからかもしれないけれど、雪を見るとそれだけで嬉しくなる。

トンネルを抜けるとさらに雪が深くなる。針葉樹に雪が積もり、枝の部分だけが地上に出ていて幹が雪の中に隠れている様は見ていて中々面白い。

8時12分山寺駅着。山寺(立石寺)というと日本を代表する観光地だけあって駅前は賑わっている、ってこともない。というか、冬だからかもしれないけど朝早いからかもしれないけど思ってたよりはるかに落ち着いた町だ。というか僕以外には同じ電車に乗ってきた観光客と思しき人が二人だけ。地元民の姿は一人も見えない。落ち着いている、落ち着きすぎている。いいぞ。北の山の山腹に山寺が見える。そのたたずまいがこれまたいい。

山寺境内に入る。山門で入山料300円を支払う。針葉樹林の間を抜ける小道がいい感じだ。ただ、快晴のおかげで徐々に溶け出したのか、ぼさぼさぼさっ、ぼさぼさぼさぼさっ、という音を立てて針葉樹の枝に積もった雪が落ちてくる。さ、さすがにこのままは進めない、と思ってリュックからレインコートを取り出していると傘と長靴を貸してくれた。ありがと、山寺の坊さん。汝の極楽への入国を許可する。

静かだ。枝から落ちる雪の音が気になるほど静かだ。芭蕉が「閑さや 岩にしみ入る 蝉の聲(声)」と唱えた気持ちがよく分かる。嘘、雪が積もりまくっててとても蝉の声なんて想像できる訳は無い。ま、でも静かだ。良過ぎる。よし、僕も一句。

閑さや 岩にしみ入る 雪の音

うん、いい句だ。最高の出来だね。僕ってもしかしたら芭蕉の生まれ変わりじゃないのかな。

五大堂という建物が崖からつきでている。行こうと思うが、路が滑る滑る。階段が凍結してしまっててロープを手繰り寄せながらでないと登れない。やっとのことで登りつくと、・・・絶景だ。ありえない絶景だ。一面の雪。下の方に、集落が見える。いや、下界という表現のほうがふさわしい感じだ。いや、下のほうの集落までひっくるめて天国にいる感じだ。パラダイスのパノラマって感じだ。おっといけない、ここは山寺だった。訂正、極楽浄土にいる感じだ。しかも静かだ。始めは何の音だか分からなかったけど、多分地下水の音だと思う。ごーっという地鳴りが聞こえるぐらい静かだ。地下水の音って聞こえるのね。感動したので一句。

閑さや 岩にしみ入る 雪融けの音

うん、いい句だ。最高の出来だね。僕ってもしかしたら芭蕉の生まれ変わりじゃないのかな。

という訳で、俵万智さんの代わりをお探しの出版社の方、もしくは冷泉家の方、いやもう和歌と俳句の違いに目をつむってくれる方なら誰でもいいやスカウトお待ちしております。

奥の院、大仏殿というのがこの山寺立石寺の御本尊の置いてある建物らしい。お賽銭を投げ入れて旅の安全を祈願する。御神籤が置いてある。50円だ。麓にも御神籤が置いてあったけどそれは100円だったな。商売上手だな、山寺よ、ソチもワルよのぉ〜。少しニヤリとしながら御神籤を引く。

吉。枯木も春に遇うて生ず 前途必ず・・・(中略)・・失物おそく出づべし。たびだち三の日か九の日よし六、七、十か四もよし。

今日何日だったっけ。二十七日。三、四、六、七、九、十の日ってほとんど全部だよな、という点は無視してよっしゃーと喜んでおいた。

山を下りようとすると外国人観光客と思しき数人を発見。かつて外国人の観光案内をしていたことがあるので観光地で外国人を見ると落ち着いて観光できないんだよね、僕。思わず話しかけてしまう。 “Where are you from?” “England.” ほんまに?イギリスからわざわざ日本のこんな僻地に観光に来るの?日本人観光客でさえ数人しかいないこの地に。ちょっぴり感動する。

10時33分発の山形行き電車に飛び乗る。余りにもいい景色に見とれて2時間以上いたことになる。僕はもう一度きっと観光に来るだろうな。

5分程で高瀬駅に到着。高瀬駅とは「私はワタシと旅に出る」でおなじみの「おもひでぽろぽろ」の舞台となった場所だ。僕はジブリが非常に好きだ。ラピュタは十回以上見ている。だが盲目的ジブリマニアではない。この「おもひでぽろぽろ」だってテレビでやってるのを見ようとして余りにもの話の遅さにチャンネルを変えてしまったくらいだ。じゃ、なぜここに来たか。おもひでぽろぽろに出てくる紅花畑がきれいだったからだ。

正直なところ、「ジブリゆかりの地」という看板一つくらいはどうせあるだろうな、と思っていた。だが、何も無い。もう一度書く。何も無い。駅舎が一つあるのみ。駅前に紅花畑か田んぼだか、農耕地が広がってはいるが人家はまばら。本当に何も無い。しつこいようだがもう一度書く。何も無い。自動販売機はあったが、商品がそもそも入っていない。

こういう何も無いとこ歩くのが好きなんだよね。とりあえず、駅から南へと向かう。ひたすら歩く。あたり一面の雪。心が洗われるようだ。原住民、じゃなかった、住民を発見したので別に道に迷っているわけでもないが道を尋ねてみる。・・・全然聞き取れない。ズーズー弁だかなんだか知らないけど、一単語さえ聞き取れない。方言好きの僕が衝撃を受けるぐらいすごい方言だ。

大河ドラマで「西郷隆盛」というのをやっていたことがあるらしい。その時、薩摩弁が余りにも難しすぎたから大河ドラマでは史上初めて共通日本語訳の字幕がついたそうな。その話を聞いた時、そんなアホな、と思ったものだがここへきてうなずいてしまった。

正午過ぎ、引き返す。雲行きが怪しい。朝はあんなに晴れていたのに薄暗い雲が垂れ込めだしている。しまったな、山寺立石寺で今日は晴れますようにって祈っとけばよかった。いや、お賽銭をもうちょっと投げ入れとくべきだったかな。そんな反省をしながらひたすら歩く。実は腹が減っている。コンビニぐらいあるだろ、と考えて何も食べ物を携帯していない。昨日の晩のお茶がわずかに残っているだけだ。2時少し前に駅に着く。えっと〜、次の電車は2時53分?そんな一時間も待てるか。コンビニを探しながら一駅分歩くことにする。歩き出してしばらくするとタイミング悪くぱらつきだした。

20分ほど歩いた所にコンビニがあるにはあったが本日休業の張り紙。なおも10分ほど歩いて楯山駅にたどり着く。3時に楯山駅を出る。10分ほどで山形到着。改札のすぐ外にアリバイ店があって沖縄北海道物産フェアをやっている。が、駅弁店が隅のほうで申し訳なさそうに営業している様が見ていて悲しい。頑張れ、山形の駅弁、負けるな、山形の駅弁。同情して一番高かった紅の花弁当を購入。味付けが濃いのに白いご飯が少なすぎるものの、食べられない味ではない。お土産にさくらんぼ漬けを購入。ちなみに家に帰って食べてみるとさくらんぼの食感で梅酢の味。

4時少し前に山形発。終点米沢まで50分弱。時刻表を見ると米沢からの福島行きは一日に六本しかない。山形線は一応奥羽本線、しかも上り。それが一日六本しかないなんて。超ローカル線の神岡鉄道に負けてるよ、君。新幹線の開通で閑古鳥の無く在来線と、アリバイ店に負ける山形の駅弁店を重ねながら涙を流す、・・・程他人思いの僕ではないが、福島行きの電車が無くて途方にくれる。次の電車まで40分も待つのはアホくさいし、上杉神社にでも行くか。20分ほど米沢の町を歩く。多分雪対策のために縦向きの車用信号機に吃驚しているうちに上杉神社に到着。神社の前の広場に数メートル絨毯状に雪が積もっている。南国の人間だからか知んないけど雪が積もっているだけで感動できる、おめでたい僕。

そんなおめでたさを改めて再確認しながら6時37分の電車に乗る。10分ほど走ると山が近づいてきたこともあってあたりは真っ暗。40分強で福島着。乗り換えて郡山方面へ。二本松(ニコニコ共和国前)駅というかっこよすぎる駅名に我が目を疑ったりしながら8時20分過ぎに郡山到着。晩御飯の駅弁を買おうとしたら、もう閉まっちゃってる。そっかー、夜遅いと店って閉まるのね。そんなこと学校もママも教えてくれなかったよ。なんて少し感動しながらママも先生も使い方を教えてくれなかったコンビニで晩御飯を買う。8時45分発の「ゆうゆうあぶくまライン」で東へ。こら、そこ、JRってネーミングセンス悪いよね、とか陰口たたかない。

数分で舞木駅到着。無人駅、夜間人通りが少なそう、よし、この駅に決めた。電車から降りる。終電を確認すると二時間後だったのであたりを二時間ほど散策。11時過ぎに戻ってきてSTBしようとすると駅舎に張り紙。曰く、ここは警察の重点見廻り地です。勿論警察が重点的に見廻りしているから安全という考え方も無くは無いが、こういう場合はむしろ逆に重点的に見廻りしなけりゃならないほどそれ系の人達の溜まり場になっていると考えたほうがよい。困ったな。財布取られたらゲームセットだし。という訳でプラットホームにあった屋根つきのベンチで一夜を明かすことにした。



本日27日の旅と気象
徒歩での移動25キロ強
電車での移動551キロ超

午前8時〜午後4時山寺立石寺、高瀬、山形
この間の山形の気象(気象庁発表) 晴れのち雨
最低気温 2.9度最高気温 11.2度

午後5時〜午後7時米沢
この間の米沢の気象(気象庁発表)
最低気温 9.2度最高気温 10.4度
積雪6メートル弱

午後9時〜    舞木
この間の船引の気象(気象庁発表)
最低気温 7,0度最高気温 8.4度


ちなみに次回は「奥州街道を歩く―雨降る旅路は福島にて―」。

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