東九オーシャンフェリー



3月13日

17時50分、有明埠頭のフェリーターミナル到着。広い敷地に建つ立派な建物だ。ただ、ここからの航路は二本しかない。だから、二階のチケットフロアはただっ広く閑散としている。どこまでも人の息吹の感じられないお台場だ。

これから乗るのは東京〜徳島〜新門司(九州小倉)を結ぶオーシャン東九フェリー。これで徳島まで向かう。この航路は極一般的なフェリーであるスタンダードフェリーと二等寝台しかないカジュアルフェリーが一日交代でピストン輸送している航路だ。この内、カジュアルフェリーというのは最近の経営難を反映して、合理化を徹底的に推し進めた船なので二等寝台しかない。今日はカジュアルフェリーの出航日である。

閑散としたチケットフロアの一番端でチケットを購入する。プリペイドカードを渡される。いよいよ、という感じだ。思わず武者震いする。再び武者震いする。三度武者震いする。

本当は武者震いではない。便所に行きたくなってしまったのだ。便所はどこだ。・・・・あれかぁ。200mはありそうなただっ広い横長のフロアの一番端に今いるのだが、その反対側、地平線の彼方に便所が見える、気がする。大慌てで走る。オーシャン東九フェリーさんよ。トイレぐらいもう少し作ってくれよ。

自転車の搭乗手続き開始は18時10分からである。チケットを買い、用を済ませるとすぐだ。外に出て、車両用乗船口へ向かう。ツーリング用具を積み込んだライダーが二十人弱ほどいるが、自転車は僕だけである。非常に目立つ。おかげで船に乗り込んでから「君、自転車少年だよね?」と、それをきっかけにして色んな人と話せた。非常に嬉しいし鼻高々である、訳がない。「ふ〜ん、自転車ねぇ。お金がないのかな?バイク免許がないのかな?かわいそうに。」だとか、「一人前の顔して自転車に乗っとるけど、あいつ絶対素人やって。」だとか言われているような気がして、この時は穴があったら入りたい気分だった。

自転車ごと乗り込む。徳島行きのバイク、自転車は最初に載せてもらえるので、船内がすいているうちに乗船できるのは嬉しい。船内でゆっくりくつろげる。

船内を探検。ベッドにはコンセント。充電が可能なのは自転車旅行者にとっては嬉しい。シャワールーム、展望風呂、コインランドリー、スカイルーム(絨毯の広い休憩室のこと)、雑誌の売店、ゲームセンター、TV、電子レンジ、お茶・水の無料給水機、キッチン、自動販売機(食べ物と飲み物)がある。船内を探検しつくし甲板へ。

北にフェリーターミナル、その向こうにライトアップされたお台場の観覧車。東には東京湾が広がり、対岸に千葉沿岸の京葉工業地帯の街明かりが見える。その街明かりの中、浦安ディズニーランドの観覧車が小さく丸く黄色に瞬いている。西南には羽田飛行場。薄曇の夜空の雲を透いて満月が微かに見える。そんな雲が、白く明るい。周囲360度の水平線の煌々とした灯りが雲に映えているのだ。文明の力を感じる。

フランスバルビゾン派の画家ミレーは「落穂拾い」や「種をまく人」、「羊飼いの少女」を描いた。彼の描く絵はその地平線を淡い白い光でぼかして描いているところにその特徴がある。その白い地平線は神の救いを求めるミレー自身の気持ちを反映したものだそうだ。東京湾で黄色や白色、赤色の色とりどりの光に周りを囲まれた僕は、しかし、水平線の光に神ではなく日常生活を重ねて見ている。最早後戻りはできない。日常生活はもう手の届かない場所にある。生きて帰ってくるしかないのだ。これからこの地球という大地を、自分の力だけで踏みしめて歩まなければならないことを、今、つくづくと感じている。

19時10分、船が動き出す。グラグラ揺れる。思わず、甲板を踏みしめる。地球という大地を踏みしめる前に、甲板をしっかり踏みしめておかないと海に落ちてしまいそうだ。フロアで四国へ出張のおじさん三人組と二時間ほど飲み交わし四国路での再会を約して、布団にもぐる。周期的な船のゆれとかすかに聞こえるボイラーの音を感じながら、眠りにつくのであった。



3月13日
走行時間1時間5分
走行距離16.71 km
平均速度15.3 km/h
最高時速33.5 km/h
総走行距離18.5 km

次回―四国上陸

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四国三界一周十二日記

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