四国上陸



3月14日

5時50分起床。
甲板に出る。風がめさめさ強い。手すりにつかまりながら歩いて回る。船窓についた真っ白な潮が、夜来吹きつけていたその風の強さを物語っている。
晴れてはいるが、東の水平線だけ雲で隠れている。その雲の中から6時15分頃朝日が顔をのぞかせる。

展望風呂へと向かう。朝風呂、朝日の黄金風呂だ、と期待していたが船窓には白い斑の潮がびっちりとこびりついている上、湯気でくもっているおかげで、かさがかかってしまって朝日はおぼろげである。黄金風呂ではないが、気持ちいい。

船が周期的に揺れるのだが、その揺れと同期して浴槽の水も揺れる。子供の頃を思い出す。自宅の狭い浴槽で体を前後にゆすってお湯を揺らして遊んだものだ。あるペース以上で揺らしても水は絶対にそのスピードについてこなかった。丁度いいスピードで揺らさないと水は一緒に揺れてくれなかった。そして、丁度いいスピードで体をゆすると、ジェットコースターに乗ったかのような気分を味わえるのである。子供心に不思議に思ったものだ。理系大学生の僕は、この水が揺れるスピードが水深と関係あることを知っているが、そんなことは忘れ童心にかえって水を揺らし遊んだ。貧相な大学生が湯船の中で前後に体をゆすっている。もし他人が見たら、非常に怪しい光景である。

二度寝。昼前に起きる。船内の自動販売機で300円の「ラ王、とんこつ」が売り切れていた。いつ補充するのだろう。

徳島港か新門司港に入港した時補充する徳島港か新門司港にあらかじめ何で運んでおくのか?フェリー?
東京で補充する東京発のフェリーがなぜ徳島に着く前に売り切れてしまう程度のとんこつしか載せていないのか?
船内に実は既に積んでいる。どうして今補充しないのか


と、「ラ王、とんこつ」の謎について真剣に考える。考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。ただ、「ラ王、とんこつ」を300円で売るこのオーシャンフェリーはぼったくりである、ということだけははっきりしている。

なぜ、300円もする「ラ王、とんこつ」が売り切れるのかって?チケットを買うときに船内でしか使えないプリペイドカードをみんな押し付けられているからだ。こんなプリペイドカードいらないから、乗船代安くしてくれ。

こんな下らんこと考えてしまうのは暇だからである。18時間半も船の中にいると暇なんだよ。

13時半頃徳島入港。余ったプリペイドカードで後先考えず「スパ王」と「ラ王」を買いだめした。「食費が浮いた」と嬉々として船を降りる。この後起こる悲劇も知らずに。

13時40分徳島港発。東京では物流の倉庫とコンテナトラックが多かったが、徳島港では針葉樹の丸太が無造作に積まれている。それを見るだけで四国という島が東京とは違う産業に支えられているということが分かる。

県道120号線、県道16号線を通り、勝浦川橋で国道55号線に合流。来し方を眺めやる。地方都市の香りのする徳島の街並みが、堤防の向こうに微かに顔をのぞかせている。鶴林寺〜剣山スーパー林道をその山間にひそませている南西の剣山地には、やや厚い雲がかかっている。次にこの徳島に戻ってくる頃には、桜が咲いているはずだ。

国道55号線(阿南道路)は徳島から南へ田園を貫く快走路。道幅も広く、路面もいい。信号機も少ない。快走路だけあってオービスがたくさん設置してある。平均時速20km超で一路南へ向かう。荷物を背負う背中に汗がにじむ。でも、電光掲示板によると気温は5℃。風を切って進む体の前面は寒い。

海が近づくにつれ風が強くなる。16時前湊橋を通る頃には雪がぱらついてきた。国道55号線はこれから太平洋へ向かって山を越える。僕はこれから県道26号線(由岐大西線)で四国の東端、蒲生田岬を目指す。国道とはしばらくのお別れである。

県道26号線の入り口脇にあるスーパーマルエーで買い物。某大手スーパーの店名を明らかに意識したこの店名は商標的に大丈夫なのか、大いに気になるところである。店の裏の駐車場にQ-styleという無料求人誌が置いてある。徳島の片田舎に無料誌があることに少し感動する。ちょっと失礼な発言。

キャベツが一玉74円で売ってある。ありえない安さだ。一昨年台風が来た直後、○○エーという某大手スーパーで一玉980円でキャベツを売っていたことを考えなくても、ありえない安さだ。衝動買いする。

県道26号線は標高100mにも満たないちっぽけな丘の椿坂トンネルをくぐる。椿川沿いの県道200号線(蒲生田福井線)を東へ走る。背後を振り返ると、山間の黄白色の西日が椿川に映えている。

ガソリンスタンドの先を右へと曲がる。北の燧岬と南の蒲生田岬はハサミの二枚の刃の様に、細長い湾を挟んでいる。その燧岬に学校と小船が見える。学校へ通う生徒はあの小船を利用して毎日湾を横切るのだそうだ。

海岸の猫の額のような平坦地に生えている松と、右手にそびえる崖の間を、激しくアップダウンする県道200号線。集落と集落をかろうじてつなぐ。この一帯は昔から陸の孤島といわれていたそうだが、それも納得できる話だ。

蒲生田岬のほうから満月が昇ってきた。18時20分、船越温泉前の工事現場脇の駐車場でテントを張る。自分一人でテントを立てるのは初めてである。面倒くさいのでフライシートは張らなかった。強い風と波の音を聞きながら、フライシートをはらないで本当によかったのかどうか悩んでいるうちに、僕の人生初の単独テントの夜は更けていった。



3月14日
走行時間2時間41分
走行距離47.51 km
平均速度17.7 km/h
最高時速38.6 km/h
総走行距離67.0 km

次回―野生に帰る一日

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四国三界一周十二日記

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