聖地安芸で必勝祈願



3月17日

7時20分出発。10km程走ると吉良川町。真っ白な土佐漆喰の壁と真っ黒な庇の水切り瓦。切妻造りの民家が立ち並ぶ中、赤茶色の煉瓦が所々に点在する。東西750m、南北250mの狭い範囲に900人が住む吉良川町。明治から昭和初期にかけて日本の代表的な備長炭の生産地であり、積出港として栄えていた。この古い町並みはその当時の繁栄の遺産。1997年、高知県で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されたのもむべなるかな、という町並みである。

9時半頃、奈半利。コインランドリーで二時間ほどかけて洗濯。登校日なのだろうか、ランドセルを背負った小学生が歩いている。僕を見かけると元気に「おはようございまーす」と挨拶する。さすが、である。見慣れない不審者にもちゃんと挨拶するとは、非常に純朴な小学生達である。今時都会には絶対にいない小学生だ。四国を旅行していると、このように小学生によく声をかけられる。でもさ、声をかけられる度に申し訳なくなる。将来俺みたいに汗まみれ泥まみれの放浪したら、親が悲しむぜ。だから、俺の方は見ちゃダメだよ。

北川村のモネの庭マルモッタンを目指す。僕はモネが大好きだ。去年、モネの展覧会が広島で開催されるという話を聞いて、わざわざ広島まで駆けつけたほどのモネファンである。そのモネと北川村がどう関係あるのか、非常に興味がある。このモネの庭は外せない。

なんじゃ、この自己満足の庭は。ただ、モネの絵に描いてあるのとそっくりの庭園を作っただけで、モネの絵は一枚もない。モネの絵の模写が置いてある。睡蓮が咲いていれば、実景と絵をその場で見比べられるようになっているのだが、睡蓮が咲いていないので目もあてられない惨状である。結婚後、お見合い写真と結婚相手を見比べた気分である。理想と現実のギャップを見ているようで悲しい。当然のごとく北川村とモネの睡蓮、その関係については全く分からなかった。わざわざこんな所まで来た自分が情けなくなる。

田野駅屋、大山を経由して爽快なシーサイドロード。安芸キャンプへ向かう。そう、この安芸は我らが阪神タイガースのキャンプ地なのである。今回の四国一周紀行の最大の目的地はここであると言っても過言ではない。勿論過言だが。ワクワクしながらキャンプ地に到着すると、やけに閑散としている。キャンプ自体は一週間ほど前に終わってしまったのだ。ファンにあるまじき大失態、カレンダーを一列見間違えていたのである。

さすが、僕だ。このアホさは自慢できる。必修のドイツ語の追試も、日めくりカレンダーを一週間めくり忘れてすっぽかしたなんて言えやしない。言えやしないよ、フフフフッ(ちびまる子の野口さん風)。

高知安芸自転車道というサイクリングロードがこの付近から高知平野まで作ってあるそうだ。期待して入り口へ向かう。・・・なんじゃ、これは。

サイクリングロードとは名ばかりである。何がいけないって、バイク除けのためのポールが入り口に立ててあるので自転車は物理的に入れないのだ。自転車が入れないサイクリングロードって何だよ。責任者、出て来い、コラ!
やむなく国道55号線を西へ。

赤野休憩所から眺めると、白砂青松が美しい。ここからサイクリングロードに乗り入れる。この付近はバイク除けのポールが少なくて走りやすい。サイクリングロードは白と青の境界を一直線に西へと向かう。

となりのトトロでトトロに会う時に通る森の小道のようなトンネルを抜けると手結港である。手結港の跳ね橋が遠目にもはっきりと見える。

手結港の跳ね橋。港が道路より内陸側にあるため、水路と道路が交差している。その交差部にある一時間から二時間おきに上がったり下がったりする橋である。道路が跳ね上がっているのは、中々不思議な光景だ。しかし、地元の人が言うには、「迂回路あるし使わんキニ」だそうだ。

一応読者の皆さんへ。僕が行った時は運良く跳ね上がっていたが、一時間ずれていたら折角の跳ね橋が下がっていたかもしれません。だから、この橋を見に行きたい、という人はあらかじめ調べておいた方がいいかもしれません。特に、橋が動いているところをみたい、という人は絶対に下調べしておかないとダメでしょう。

手結港の近くの道の駅夜須で休憩。椰子の木が多い。夜須という地名に引っ掛けてるんだと。・・・や、ヤーネー。ヤーン、バカーン、アッハーン。笑点の林家木久蔵もびっくりである。

この夜須があるのは、高知県香美郡。アンパンマンの作者、やなせたかしさんの出身地である。アンパンマン。まさか、改めて説明する必要はないだろう。幼児に非常に人気のある国民的ヒーローである。

アンパンマンは顔が欠けたり汚れたり濡れたりするごとに弱くなっていく。それだけのことでヘボくなる、弱いヒーローだ。にも関わらず、お腹がすいているカバ夫君のために自分の顔を食べさせてあげる。つまり、弱者を助ける時に自己の体を絶対に犠牲にせざるをえないヒーローなのである。

その点で多くのヒーローと一線を画している。仮面ライダーは悪者に襲われている人のために戦いはしても、その際に自己の体を犠牲にはしない。ウルトラマンは(テレビ放送の都合上)三分間しか地球上にいられないが水に濡れるだけで負けはしない。孫悟空はそもそも「悪」と戦うヒーローではないし、何度死んでもあの手この手を使ってしつこく生き返ってくる。しつこいやつは、友達に嫌われるぞ、悟空。

でも、アンパンマンは自分が弱くなるという代償を支払ってお腹がすいているカバ夫君を助ける。やなせたかしさんは、自己犠牲を払うことなしに人を助けることはできないということ、つまり正義というものは正義自身の犠牲の上に成り立つものであるということ、そして正義を実践することで弱くなるということが自明であるにもかかわらず、正義を実践せずにはいられないということを描きたかったのだ。正義は決して無敵で格好いいヒーローではないのである。

どうして、弱い正義がいることを描きたかったのか。それは、やなせたかしさん自身が身体障害者だったからなのだ。
「ああ、道理でアンパンマンの顔、絵のヘタクソな俺にも描けたんだ。」
こら、そこ、失礼なこと言わない。

ついでにもう一つ。お腹がすいている人を助けるために飛んでくるアンパンマンには、終戦直後の物資不足の時代お腹をすかせていたやなせたかしさん自身の実体験が裏にあるそうである。
なんで知っているのかって?日経に載っていたんだよ。あの、日本経済新聞に。え、キモい?確かに。話を戻そう。

一応、高知安芸自転車道はこの夜須以西にも数キロ続いている。この数キロは特に酷い部分だ。万里の長城のような堤防の上を走るサイクリングロード。本来なら最高に気持ちのいいはずなのだが、5mおきに段差がある上路面がデコボコなので、パンクも注意しなきゃいけないし「おいど」も痛くなるし。無論車両除けが設置されてて自転車は通りにくいし。とにかく、サイクリング向きではないので、走らないことをお勧めします。

名ばかりのサイクリングロードを走ることを遂にあきらめ、国道55号線。途中から県道14号線(春野赤岡線)。この14号線は信号機も少なく流れも良い。非常に走りやすい。左右には電照菊のビニールハウスと水田の大平原が広がっている。この一帯はつい数百年前までは太平洋だったそうだ。

赤紫色の夕焼け。ほぼ真西を指して14号線を走っているとその美しい夕焼けが否応なしに目に入る。四国に来てから何度も夕焼けを見たが、毎回違う色をしている。

三十二番・禅師峰寺へ立ち寄っていると、闇が迫ってきた。辺りが真っ暗になる頃、種崎千松公園に到着。ツーリングマップルではここにキャンプ場があるって書いてあるんだが・・・。うん、確かに。ブルーシートのテントが沢山建っている、安心だ。ってコラッ!編集者、出てこい!どー見てもこれ、アイリン風テントじゃないか。テントを張ろうかどうか迷っていると、ヤンキー風の若者がバイクやワゴン車に乗って三々五々集結してきた。

怖いな。ホームレスと暴走族と同じ公園でキャンプか。寝ている間に絡まれないかな。おい、よく見たらすぐ隣にラブラブなホテルあるじゃん。夜中、あの声がうるさかったらどうしよう。風が強い、太平洋に面してるよな。大波が襲ってきたら死んじゃうよ。遺体も見つかんないかも。そんな不安を抱きつつテントを張ったのであった。じゃ、明日も夜露死苦!



3月17日
走行時間4時間41分
走行距離83.28 km
平均速度17.8 km/h
最高時速51.6 km/h
総走行距離294.0 km

次回―雨と便所、地獄の雪隠詰め

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